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1月 16, 2023の投稿を表示しています

第1章「桐壺」(2/2)藤壺

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 藤壺だという。じつに姿様子が怪しいまでに思い出させなさる。この方は人として位階がまさっており印象が華やかで、人も貶めて言うことができないのでそのままに受け止めて飽きることがない。あの方は人の認めがなかったから、お心ざしがあいにくのこととなったわけなのだろう。思い紛れるとはなかったが、自然にお心は移って、こよなく思い慰めるようなのも憐れなことであった。  源氏の君はお近くを去りなさらないが、さらに頻繁にお渡りになるお方はもう恥じ堪えなされない。どちらのお方も俺は人に劣らんと思っているのではとあり、それぞれにまあ目出たかったが打ち大人びなさるとそれは若く美しげであり切に隠れなさるがおのずから見させていただく。  母の御息所も影すら知っておられないのに、とてもよく似ていらっしゃると典侍が言っているのを若いお気持ちでじつに憐れだと思い聞きなさって常に参りたく、親しく拝見させていただきたい、とお思いになる。  主上も限りないお思いで、疎んじにならないでください、怪しくよそへ聞こえているような気持ちがする、上から見ていると思わずに可憐にしていてください、顔つき目などはじつによく似ていたから、通っておみえになるのも似気なからずなむ、などとお頼みしておられたので、幼い気持ちにもはかない花紅葉につけても心ざしを見え奉る。こよなく心を寄せてきこえなされば、弘徽殿の女御そしてこの宮ともお仲が余所余所しいために、それに加えてもとからの憎さも立ち出でて「これは」と思ったのだった。  世に類いなしと拝見しなさり名高くいらっしゃる宮のご容貌にも、なお匂わしさは例えようもなく美しげであるので、世の人は「光る君」と呼んだ。藤壺はお並びになり、ご印象も様々なので「輝く日の宮」と呼ばれた。  この方のわらべ姿はもう変えたくないと思ったが、十二才で御元服をなさった。居出立ちを思い営んで、決まりのある事に事を加えさせなさる。一年前の春宮の御元服、南殿であった儀式、よそおしかったお響きに落とさせなさらず、所々の饗宴など内蔵寮や穀倉院など公事にお仕えになる、疎かな事があってはととりわけての仰せ言があって、清らかさを尽くしてお仕えになった。  いらっしゃる殿の東の廂、東向きに椅子を立てて冠者の御座と引き入れの大臣の御座が御前にある。申の時になって源氏は参りなさる。みずらをお結いになったお面つき、顔の匂い、様子を...

第1章「桐壺」(1/2)発端

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  桐壺  いつかの御治世だか、女御更衣やたらお控えなさる中に、超とんでもない程ではないが目立ってトキメキなさる、いたんだ。はじめから「わたし」と思い上がりなさるお方々は目ざわりなやつとオトシめヒガ見なさる。同じ位かそれより下級の更衣たちはさらにモヤモヤだ。朝夕の宮仕えについてもただ人の心を騒がし恨みを負うのが積もったからであるかひどく重症になってゆき、もの心細げに籠りガチなのをいよいよ懲りず憐れなるものに思われて、人の批判をも憚りなさらず世のうわさにもなってしまいそうなお振る舞いである。  公職トップ3の「カンダチメ」上達部、お側付きの殿上人なども仕方なく目をそらしつつ、超眩い人のお気持ちなのだ、中国でもこんなことが起こったからこそ世が乱れ悪くなっていたのだ、とだんだん世間事にも興味なく人のもて悩み草になって、楊貴妃の例も引き出すべくなってゆくと、マジだらしない事は多かったが、もったいない、類のないお心映えを頼みにしてお付き合いなさる。  父の大納言は亡くなって、母の北の方なら昔の人の事があるので、親が揃い差し当たって世のおぼえ華やかなる御方々にもそうは劣らず、何事の儀式でも取りはからいなさるけれど、取り立てて頼りになる後見者もないので、何かある時はさらに拠りどころなく、心細げなの。  前世でもお約束は深かったのだろう、世界に二人となく清らかな、玉の男の子さえお生まれになった。いつなのかと心がふわふわなさって、急ぎご参上になりご覧になると、稀に見る稚児のお姿である。第一の御子は右大臣の一等女官、女御の御腹からであり、寄せ重く疑いなき真の君と世に評されかしずかれるが 、この薫りには並びなさるべくもないわけなので、全身全霊の極まるところなきお思いで、この君を自分のものに思われて、お世話なさること無限である。  はじめから通常のお側仕えをなさるべき境遇ではなかった。おぼえがいとやむごとなく貴人のように見えるけれど、訳なくまつわさせなさるあまりに、さるべきお遊びの折々に、何事でも理由のある事の節々にはまず参上させなさる。ある時には御殿に籠もり過ごしてやがてお控えなさるなど、無理にでも御前を去らないご対応をさせなさるうちに、元々は軽い存在にも見えたのが、この御子がお生まれになった後はもう特別な気持で思い置かれていたので「皇太子にも用なしとは、この御子がいないといけな...