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第5章「若紫」(2/3)帰還

若紫(2/3)帰還  聖は動きもできないが、ともかくも護身法のために参上して下さる。枯れた声が比類なく透き通り、ひずむのも、悲しいくらいに尊く「ダラニシンゴン」陀羅尼真言を唱えた。お迎えの人々が参上して治癒なさった喜びを聞かせ、御所からもお見舞いがある。僧都は、世にも見ない形の果実をあれこれと谷の底まで掘って出し、忙しく声を上げなさる。今年までの誓いが深くありまして、お送りにも参りおられないこと、なかなかにも思いくだされましょうかな、など聞かせなさって、大御酒を届けてくださる。  山水に夢中になっておりましたが、御所からも覚束なくして頂いたのも、畏れ多かったなあ。今、この花の頃を逃さず参り来よう。 宮人に 行きて語らむ山桜 風よりさきに来ても見るべく  とおっしゃるお振舞い、声使いさえも目が眩みそうなのに、 優曇華の 花待ち得 たる心地して 深山桜に目こそ移らね  と聞こえたので微笑んで、時が来て一度開くというのは難しいけどなあ、とおっしゃる。聖は盃を頂いて、  奥山の 松のとぼそをまれに開けて まだ見ぬ花の顔をみるかな  と泣いて拝見する。聖はお守りに神聖なる棒「ドッコ」独鈷をさしあげる。ご覧になった僧都は、聖徳太子が百済から得なさった金剛子の数珠の玉の装束をしている、後にその国から入れた箱で唐風なものを、透けた袋に入れて、五葉の枝に付けて、紺瑠璃の壺に薬を入れて、藤や桜などに付けて、付けてある贈物を、捧げて奉りなさる。君は、聖をはじめ読経をしている法師の布施や設けの物を様々に取りにやらせてあったので、その周辺の山人までもが然るべき物を頂き、読経などをしてお出になる。中に僧都がお入りになり、あのお聞かせになったことを似たように聞かせなさったが、ともかくもただいまはお聞かせする方がない、もしお気持ちがあればもう四五年過ごしてこそはともかくも、とおっしゃると、そうですね、と同じ様にだけあるのを本意でないと思う。  お便りが、僧都のもとにいる小さな童によって、 夕まぐれ ほのかに花の色を見て 今朝は霞の立ちぞわずらう  お返しに まことにや 花のあたりは立ち憂きと 霞むる空の気色をも見む  と、由緒あるじつに高貴な手を捨ててお書きになった。  車にお乗せするところに大殿から、どこにともなくていらっしゃること、とお迎えの人々や君達などが大勢参られた。頭中将、左中弁さらぬ君...