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第4章「夕顔」(1/2)惟光

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夕顔(1/2)惟光 参上いたしました 夕顔  六条あたりのお忍び歩きのころ、御所から退出なさる途中の寄り所に、大弐の乳母がひどく煩って尼になってしまったのをお見舞いしようと、五条にある家を訪ねてゆかれた。  お車が入るべき門は閉ざしてあったので、人をして惟光を呼ばせて、お待ちになるあいだにむつむつした大通りの様子を見渡されると、この家の傍らに、檜垣というものを新しくして上は半蔀を四五間ばかり上げ渡して、すだれなどもすごく白く涼し気なところに、いかす額つきの透き影が沢山見えて覗く。立ち彷徨うような下界を思いやるとあながちに背が高い気持がする。どんな者が集まっているのだと様変わってお思いになる。  お車もかなり地味になさって前駆も追わせなさらず、誰が知るかと気楽になられて少しさし覗いていると、門は蔀のようであり押し上げてある。中を見るほどもない、ものはかない住まいをあわれに「どこへゆくのか」と思ってみると、玉の台も同じことなのだ。  切り懸け立つものに青々としたツルが心地良げに這い掛かっていて、白い花だ。自分一人笑みの眉が開けていた。遠方の人にもの申す、と独り言をなさるとご随身が従いいて、あの白く咲いているのを夕顔と申しておるんです、花の名は人みたく、こう怪しい垣根に咲いておったんですね、と申す。ほんとにまじ小家がちに建て込んでいるあたりでこれもあれも怪しくうちよろぼって、棟々しくあらぬ軒の端などに這いまとわっているのを、口惜しさの花の契りだ、一房折ってまいれとおっしゃると、この押し上げてある門に入って折る。さすがにされていた遣戸口に黃の生絹の単袴を長く着こなした童のいかしたものが出てきてうち招く。白い扇のぐっと焦がしてあるのをこれに置いて参らせよ、枝も情けな気なような花を、と言って取らせていると、門を開けて惟光朝臣が出てきていたのをたてまつらせる。  鍵を置き惑わさせてしまいまして。  えらく不便なことではないか。ものの綾目をお見分けになれる人も控えていないあたりですが、やかましい大路に立っておられて、とかしこまって申す。  引き入れてお降りになる。惟光の兄の阿闍梨、婿の三河守、娘など渡り集っているところに、こういらっしゃっている喜びをまたとない事とかしこまる。  尼君も起き上がって、惜しくもない身ですが捨てがたく思っておりますことは、ただ御前に控えて御覧ぜられること...