投稿

2024の投稿を表示しています

紅葉賀(抜粋)青海波

 朱雀院の行幸は10月神無月の10日過ぎである。尋常でなく面白いはずの回であったから、お方々は見物できないことを口惜しがった。天皇も藤壺が見ていないのをずっと気にしていたので、リハーサルを御前でさせた。  源氏中将は「青海波」を舞った。相方には大殿の頭中将。容貌も用意も人柄も違っているが、立ち並ぶと、それでも花のかたわらの深山木である。  落ちてゆく太陽の影が鮮やかに射し入ると、音楽が湧き上がり、演舞は高潮を迎えた。足の運び、表情、この世のものとは思えない。詠唱なんかすると「これや、神のカラビンカの声なんら」と声が上がる。面白くあわれなので天皇は涙を拭い、上達部や親王達もみんな泣いた。詠唱終わって袖を打ち直していると、待っていた音楽の賑やかさに表情も冴えてきて「いつもより光っている」と見えたよ。  皇太子の第一女官はこのめでたさについてもただならず思って「『神』とか、空に愛でるような顔かいな。いややあかん」と述べるのを若い女官などは「やな感じ」と耳に止めていた。藤壺は「無分別な心がないから、マシでめでたく見えまし」と思うと夢のような気持に、なったなん。

紅葉賀(抜粋)犬君再び

イメージ
 男は「朝拝に参ります」とでさし覗いた。 「今日からは大人らしくなりなさるかや」とうち笑むところ、超めでとう愛敬付いている。いつのまにか雛をセッテングして居流れている。90センチの物入れ厨子一つに品物を設置し、小さな家も作って並べて、ところ狭しとおもちゃを広げてる。 「『鬼やらい』だって犬君がこれをこわしおったのであるから、つくろいおるぞ」てか、マジ大事だと思ってる。 「うん、マジ心無い人のしわざであるな。今つくろいましょう。今日は言忌みをして、もう泣いとらんと」とて出るけしき。ところ狭しで人々が端に出て見ていると、姫も立ち出て見ていて、雛のなかに源氏の君を仕立てて皇居に参上させたりしている。 男:光源氏 姫:のちの第一婦人、紫

花宴(抜粋)ミス朧月

二月の二十日過ぎに、南殿で桜の宴をしたんだ。皇后と春宮が左右にならんで登場した。弘徽殿の女御は中宮がこうしているのをいつもこんちくしょうと思うのだが、見過ごすわけにはいかんので来た。  よく晴れた日の空。鳥も気持よさそうに鳴いている。親王達は上達部から順にその道の者がみな「探韻」をもらって文章を作る。宰相中将が「春という文字をいただきました」と言う声もいつものこの人とは違う。次は頭中将だ。視線がそちらに移るのも「ただごとではない」と思ってるはずだが、そこはお気楽に見せて落ち着かせて、声使いなんかそれっぽくてさすが。 「?」マークの人達は大体が逃げ腰でしょっぱそうにしている。ましてや下っ端の者どもは天皇や春宮の才能がおそれおおくもすごいところにとんでもないお方が沢山なにしておられるものだから恥ずかしくて、晴れ晴れとくもりなきお庭に立って出るあたり半端でお安いことではあるがしんどそうである。老体のハカセ達があやしい風体でよろよろしているのはいつものことだがやはりあわれで、いろいろ拝見するにも笑える。  音楽ももちろん用意されている。だんだん日没になるころに「春のウグイスがさえずる」という演舞がじつに面白くて、源氏の紅葉祝賀のことが思い出される春宮だ。かざしを受け取らせて真剣に頼むので逃げられず、立ってゆっくり袖を返すところを一通り形だけ舞うのが、類のないものにみえる。左大臣は羨ましいのも忘れて涙を落とした。 「頭中将どこよ、遅せえ」ときたので「柳花苑」という演舞を、これはもうすこし長く、こんなこともなと気をつかったのかマジ面白かったので衣装をもらって「これは珍しい」と人は思った。上達部は皆で乱れ踊ったが、夜に入ってからはとくに決まりもない。文学を講義するにも源氏の君のものを講師も読めなくて、句ごとに大声で読む。先生方もこれは、と思っていた。  こういう時にもまずこの人を光らせるのだから、天皇もなんでかおろそかに思うだろう。中宮はその目が止まるたびに、春宮の女御がやたらと憎らしがるのも変だし、自分がこう思うのも嫌だな、と自分で思い返していた。 おおかたに、花の姿を見たのなら、つゆも心のおかれましやわ  心の中にあったこと、なんで漏れたかな。  夜は完全に更けてですね、終了しました。  上達部がそれぞれ引き上げ、皇后と春宮が帰ってしまうと落ち着いてきて、月がじつに明るく輝い...

手習 (抜粋)あれはなんだ

   先に僧都が渡った。えらく荒れておっかないところだなと思った「僧たち、経を読んで」などと言う。この初瀬に付き添っていた高僧と同じようにしている者が、何事があるのか、つきづきしいほどの下級法師に火を灯させて人の近づかない奥のほうに行った。森かと思える木の下をうっとうしい場所やと見入っていると、白いものが広がっているのが見えたのだ。 「あれはなんぞ」と立ち止まって火を明るくして見ると、何かがいる姿である「狐が化けてるんだ、このやろ、見破ってやる」と一人がもう少し歩み寄り、もう一人は「あやよや、よくないものなんだよ」と言ってこの手のものを追い払う印をつくりながらそれでもまだ見守る。頭髪があるので太っている気がするが、この火を灯している僧は遠慮もなく奥のない様子で近寄ってそれを見ると、髪は長くつやつやとして、大きな木が極めて荒々しいところに寄り添って激しく泣く。 「珍しいこともありますな、僧都の坊様にご覧にさせてさしあげねば」と言うと「現に、あやしいことです」と一人が行ってこんなことなん、と話す「狐が人に变化するとは昔から聞くが、まだ見んものだよ」と言ってわざわざ下りてきた。その渡ろうとすることによって、下衆ども皆はかばかしきは御厨子所などのあるべかしき事々をこんな渡りには急ぐものだったので、居静まりなどしてるところに四五人だけでそこにあるものを見るが、変わったこともない。  あやしいので時間が経っても見ている。もう夜も明け切ろうとしている、人か何か確かめてみよう、と心の中でそのための真言を詠み印をつくって試してみると、そうかと思ったのか「これは人だよ、しかも非常の奇怪なものではない。近寄って聞け、亡くなった人ではないだろうから。それか死んでいた人を捨てたのが生き返ったのか」と言う「何のどの人をこの院の中に捨てておいたのか。たとえ本当に人であっても狐や木霊みたいなものが騙して持ってきたにちがいない、と気の毒ではないか。穢れのある場所なんだから」と言ってさっきの宿守の男を呼ぶ。山彦が答えるのもじつに恐ろしい。あやしい事態に額を押し上げて出てきた。 「ここには若い女性など住んでおられるか、こんなことがあるんだ」と言って見せると「狐の仕業なのです。この木の下でなん、時々あやしい業なんかしとります。一昨年の秋もここにおります人の子で二つくらいでありましたのを取ってまって...