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第5章「若紫」(1/3)雀

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 若紫(1/3)雀 犬君が逃してしまったのです 若紫  熱病をお病いになって、様々に呪じない祈祷などを参らせなさるが、効果がなくて何度もおこりなさったので、ある人が、北山ですが何がし寺という所に偉い行者がおります、去年の夏も世に起こって、人々が呪じない病っていたのをやがて止めたという類いが多くありました、こじらせている時は憂くおりますので、すぐにでもお試しください、などお聞かせするので、呼びに遣わすと、老い屈まって部屋の外にも出ない、と申しているので、どうしようか、ごく忍んでやろう、とおっしゃって、お供には親しい四五人だけにしてまだ夜明けにいらっしゃる。 やや深く入る所であった。三月のつごもりなので、京の花はみな盛りを過ぎていた。山の桜はまだ盛りなので、入りもていらっしゃると、霞の佇まいも優雅に見えて、こんな光景はご経験がなく、所狭い御身なので珍しくお思いになった。  寺の様子もじつにあわれである。峰高く深い岩屋の中に、聖は入っていたのだった。お登りになって、誰だともお知らせにならずとてもとてもおやつれになっていたが、明らかなご様子なので、ああ畏い、一日召しおっていらっしゃったのでは、今はこの世のことを思っておりませんので、験方の行も捨て忘れておりますのに、どうしてこういらっしゃっているのでしょう、と驚き騒ぎ、うち笑みつつ拝見する。じつに尊い大徳であった。そうあるべきものを作り、すかせたてまつり、加持など参るうち、日は高く射し上がった。  少し立ち出て見渡されると、高い所なのでここかしこに僧坊があらわに見下ろされる。ただこのつづら折りの下に、同じ小柴だが麗しくし渡して清らかな家屋、廊下など続けて木立がとてもよしあるは、何人の住まいか、と問いなさると、お供の人が、これは何がし僧都が二年籠もりおります方にございますそうで。心の恥ずかしい人が住むという所なんだろう、あやしくも余りにやつしているなあ、聞いてこそいるが、などおっしゃる。清らかな童子が沢山出てきて、閼伽を捧げ、花を折ったりするのもあらわに見える。  あそこに女性がいるんだろう。  僧都がよもやそのようには居させないかと。  どういう人だろう。  と口々に言う。下りて覗く者もいる。いけてる女性たち、若い人、童女が見える、と言う。  君が行をなさりつつ、日が高くなるうちに、どうなのかと思っているのを、とこう...