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1月 17, 2023の投稿を表示しています

第2章「箒木」(3/3)気配

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箒木(3)気配 そこにいるのは誰  かろうじて、今日は昼間の景色も戻った。こうお籠もりになってばかりでは大殿の御心が心配なので、お出になった。  大方の景色、人の気配もけざやかに気高く、乱れたところは混じらない。  なおこれこそはあの、人々が捨てられず取り出した、真面目人間には頼まれないよな、とお思いなものだから、あまりに麗しいご様子で馴染めずに恥ずかしげに思い沈んでおられるのが寂しく寂しく、中納言の君やナカツカサ中務などのような普通と違う若者達に冗談などおっしゃりつつ、暑さに乱れなされるご様子を「見る甲斐あり」と思いきこえたのだ。  大臣も渡りなさって、打ち解けなされるが、衝立て隔てておわしましてお話し聞かせなさるを 「暑キニ」とにがりなさると、周囲は笑う。 「あなかま」とで脇息に寄っておられる。まじ安らかなるお振る舞いじゃない。  暗くなる頃に「今夜、中神、御所からは塞がっておりまして」と聞こえる。 「よせよ、いつもは忌みなさる方だったな」 「二条院へも同じ筋だに、どちらに違おうか、マジ悩ましいに」とで大殿籠った。 「めちゃ悪い事です」とあれこれ聞こえる。  紀伊の守で親しくお仕えしている人が「中川の辺りの家なあ、このごろ水を堰き入れて涼しい日陰であります」と聞かせる。 「超良かです。悩ましいで、牛ごとで引き入れられそうな所を」とおっしゃる。  忍び忍びの御方違え場所は無数あるはずだけれど、長く間を置いてお渡りになると方角塞がって、引き違え別方へと思うのはいとほしきなるべし。  紀伊の守に仰せ事を下すと、受けたまわりながら引いて、 「伊予の守の部下の家に慎むことがありまして、女性なあ引き移ってるとこにで、狭い所にありませば、失礼なることありましょうや」  と部下に当たるのをお聞きになり、 「その、人近かろうなん嬉しかろはず。女性に遠い外寝はものおそろしい気分だからな、ただその衝立ての後ろに」とおっしゃると、 「まさに、結構なおまし所にでも」と人を走り行かせる。  超内緒でことさらに大げさではない所を、と急ぎお出になると、大臣にも伝えなさらず、お供も親しい者だけでいらっしゃった。 「急に」と困るが、この人も聞き入れない。 《紀伊守屋敷》  寝殿の東面を払い開けさせて、仮りそめのご設営をした。水の印象などそのように雅びにしておいた。田舎の家のような柴垣をして、前栽な...

第2章「箒木」(2/3)恋愛

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箒木(2)恋愛 こんな恋もあった  前に、まだ全くの下役でいました時に、せつなく思う人がおりました。お聞かせしているように、形など完璧でもありませんでしたが、若いころの好き心には、この人をとまりにとも思い留めおらず、寄る辺とは思いながら寂々しくて、とかく紛らわしておりましたが、もの怨じをいたくしておりましたから、心付きなくいとかからでおおらかであればなあと思いつつ、あまりいと許しなく疑っておりましたのもうるさくて、こう数ならぬ身を見も放たないでなどとこうでも思うのでは、と心苦しい折々もありまして、自然に心を落ち着けられるようにまあ、なりました。  この女のあるよう、もとより思い到らなかった事にも、いかでこの人のためにはと、ない手を出し、遅れている筋の心をもなお口惜しくは見えまいと思い励みつつ、とにかくにつけてどこか生真面目に後見し、露ほども自分をあざむくことはしたくないと思っていたところ、すすめる方と思ったけれど、とかくになびいてなよびゆき、見にくい形でもこの人が見や疎まれんとわけもなく思い繕い、疎い人に見えば面伏せに思わんかと遠慮し恥じて、操に持て付け、見馴れるままに気持も変ではなくておりましたが、ただこの憎き方ひとつなん、心をおさめずにおりましたよ。  そのかみ思っておりましたよう、こうあながちにしたがいおじたる人なめり、なんで懲るばかりの業をして嚇して、この方も少しよろしくもなり、性無さも止むかと思って、まことに憂いなども思って絶えないような気色ならば、こうまで我にしたがう心ならば思い懲りなむと思いなさり得て、ことさらに情けなくつれないさまを見せて例の腹立ちを怨ずると、こうおぞましくはいみじい契り深くとも絶えて再び見まい、限りと思えばこう理由のないもの疑いはせよ、行く先長く見えむと思えば辛いことがあるとも念じて、斜めに思いなって、こんな心でも失せなばいとあわれとなん思うべき、人並々にもなり少し大人びるに添えてもまた並ぶ人なくあるべきようなど、かしこく教え立てるかなど思いなさって、我たけく言いそしておりますと。  少し打ち笑って、すべてに見立てなくものげないほどを見過ごして、人数なる世もやと待つ方は超のどかに思いなされて心疚しくもない、辛い心をこらえて思いなおらん折を見つけようと年月を重ねんあいなだのみはまじ苦しくなんあるはずなので、互いに背きぬべき刻みになむあ...

第2章「箒木」(1/3)哲学

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どんなのが良いか 箒木(ほうきぎ) 光る源氏。名前だけが仰々しく、打ち消されなさる過失は多いだろうに、それでも、こんな物好きな事々を後世にまで言い伝えて、軽くした名前を流そうかと、内密にされていた隠され事さえも語り伝えるけん、人のもの言いの性悪さだよ。  けれど、マジいたく世間に配慮し真面目な感じになさっていたくらいで、なよなよと不審なことはなくて、女性泣かせの交野少将ならお笑いなさっていたかしら。  まだ中将などをなさっていた時は、皇居にだけ控えて用をしなさって、御殿には途切れ途切れにお戻りになる。内緒の不品行かと疑いの声もあったかな、それでも誘惑的で慣れた感じの、その場だけの好きが楽しいなどは良いことじゃない、というご本心であって、稀には我れ勝ちで思い違えてのめり込むことは心の中だけで思いとどめる癖がなあ、不器用であり、それらしくないお振る舞いもなかにはあった。  長雨に晴れ間のないころ、皇居のお浄めが引き続いてえらく長期滞在なさるのを、御殿では曖昧に不満に思ったけど、あらゆる装備を何もかも新鮮な様相に調整なさりながら、子息の君達はただこの宿直所で宮廷業務をお勤めになる。 「宮腹の中将」 皇女の息子は 、中でも親しくお付き合いなさって、遊び戯れでも他の人より心安く慣れ親しんで、振る舞っていた。右大臣が気をつかい世話をなさる住まいはこの君もまじ物憂くして、好きが好きな困った人だよ。実家でも自分の方の立派さには引き気味で、君が出入りしなさるのに連れ立ちお話ししつつ、夜も昼も学問でも遊びでも、一緒にしてなかなか遅れを取らず、どこででも周りにいて話しなさるくらいで、自然と畏まっていることもできずに、心の中で思う事もお互い隠さずに仲良くして、評判だったったんだよ。  ぽつぽつと降られ過ごす、しめやかな宵の雨に、上殿でもまったく人が少なく、宿直所もいつもより静かな感じがして、灯火の近くで手紙などを見なさる。  手近な 書庫「 厨子 」にある、色とりどりな紙にある文章を引き出して、中将がやたらと見たがる。 「そういうのなら、少しは見せよう。切れ端っぽいのなら」とお許しにならない。 「そのぶっちゃけてむずむずすると、お思いなのこそ見たいけど。普通の大部分のは大したことがないけど、その時々で書き交わしつつ、のも見てましてなあ。お互いにもの足りない折々、待ち顔だろう夕暮れなどのこそ...