第2章「箒木」(3/3)気配

大臣も渡りなさって、打ち解けなされるが、衝立て隔てておわしましてお話し聞かせなさるを「暑キニ」とにがりなさると、周囲は笑う。
「あなかま」とで脇息に寄っておられる。まじ安らかなるお振る舞いじゃない。
暗くなる頃に「今夜、中神、御所からは塞がっておりまして」と聞こえる。
「よせよ、いつもは忌みなさる方だったな」
「二条院へも同じ筋だに、どちらに違おうか、マジ悩ましいに」とで大殿籠った。
「めちゃ悪い事です」とあれこれ聞こえる。
紀伊の守で親しくお仕えしている人が「中川の辺りの家なあ、このごろ水を堰き入れて涼しい日陰であります」と聞かせる。
「超良かです。悩ましいで、牛ごとで引き入れられそうな所を」とおっしゃる。
忍び忍びの御方違え場所は無数あるはずだけれど、長く間を置いてお渡りになると方角塞がって、引き違え別方へと思うのはいとほしきなるべし。
紀伊の守に仰せ事を下すと、受けたまわりながら引いて、
「伊予の守の部下の家に慎むことがありまして、女性なあ引き移ってるとこにで、狭い所にありませば、失礼なることありましょうや」
と部下に当たるのをお聞きになり、
「その、人近かろうなん嬉しかろはず。女性に遠い外寝はものおそろしい気分だからな、ただその衝立ての後ろに」とおっしゃると、
「まさに、結構なおまし所にでも」と人を走り行かせる。
超内緒でことさらに大げさではない所を、と急ぎお出になると、大臣にも伝えなさらず、お供も親しい者だけでいらっしゃった。
「急に」と困るが、この人も聞き入れない。
《紀伊守屋敷》
寝殿の東面を払い開けさせて、仮りそめのご設営をした。水の印象などそのように雅びにしておいた。田舎の家のような柴垣をして、前栽など気を配って植えた。風が涼しくて、どこからともなく虫たちの声が聞こえ、蛍が盛んに飛び交って、素敵なところである。
人々は、渡り廊下から出ている泉を覗き込むようにして、酒を飲む。主人も肴を求めると、こおろぎが急いで歩いてゆく。君はのどかにお眺めになり「あの中の品に取り上げて言った、その並であるかな」と思い出す。
思いの高い気性と聞いておられた女性なので、惹かれて耳をお止めになると、この西面には人の気配がする。
衣裳の擦音がはらはらとして、若い声は良い感じで、さすがに抑えて笑いなどする気配がわざとらしいな。格子戸を上げていたけれど守衛が「不用心な」と難しいことを言っておろしたから、火を灯している透き影が障子を通して洩れているのを、じわじわお寄りになって「見るか」と思うが、隙間もないのでしばし聞きなさるが、この近い母屋に集まっているということのようで、うちさざめき言う言葉をお聞きになると、自分についてらしいのだ。
「めちゃくちゃ正式に、早くも断れない先に決まりなされただけ、寂し寂しくあるだろ」
「けれどこういうすみっこにだけは、よく隠れ歩きなさるんだね」
など言うにも、思われることだけ気に懸かりなさるからまず胸がつぶれて、こういうついでにも人が言い洩らすのを聞きつけていた時などを思いなさる。
大したことはないのでそのまま聞いておられる。式部卿宮の姫君に朝顔を差し上げなさった歌などを、少し頬をゆがめて口にするのも聞こえる。くつろいでいるみたいで、歌を詠みがちでもあるのかな、でも見劣りはするかな、と思う。
守衛が出て来て、灯籠を掛け添え、灯を明るく掲げなどして、頂きものだけが来た。
「仕切りの垂れ布もどうするか。その方面が心配では目立ってしまう応対でしょう」とおっしゃると、
「何よけむとも、うけたまわれません」とかしこまって控える。端の方のお所に、仮であるようにしてお休みになると、人々も静まった。
主人の子たちがいい感じにしている。童子で、殿上のところでご覧になり馴染んでいるのもいる。伊予の介の子もいる。大勢いる中に、雰囲気が実にあでやかで十二三くらいである者がいる。
「誰が誰」などとお尋ねになると、これは亡くなった衛門督の末の子で、とても可愛がられておりましたのが、幼くして残されまして、姉である人の居場所にこうしておるのです。教養才覚も付いておりましょう、悪くはありませんが、宮中なども思いを掛けなさりながら、すっきりとは交流できておりませんようで、と申し上げる。
「あわれなことや。その姉君が、あなたの次の親」
「そうなんであります」と申すと、
「ふさわしくない親をまた、もうけたものなのかな。殿下にもお聞かせしておいて、宮仕えに出し立てよう、と洩らし奏上した、どのようになったのか、といつだったかおっしゃった。世の中こそ定めなきものです」
と実に大人びておっしゃる。
「突然に、こうなってやっておるのです。世の中というもの、そうだからこそ、今も昔も定まっていることございますかね。中についても、女の宿命は浮かんでいるとか、あわれであります」
などとお聞かせする。
「伊予の介はお仕えするか。君と思うんかな」
「どうですか。プライベートな主人だ、とは思っておるでしょうが『スキスキ』みたいなことだと、誰かしらをはじめとして受け入れおらずなあ」と申す。
「それでも『ツギツギ』と今っぽいあなたたちに、お下げ渡すのは。あの介は、すごくそれっぽくて雰囲気がありますよね」などとお話をしなさって「どちらにです」
「皆、半地下に下がらせてしまいましたよ。戻り合いおれずですかな」と聞かす。
酔いが進んて、皆人々はすのこに伏せつつ、静まった。
君は、とけても寝られなさらん。いたずら伏せと思われるとお目が覚めて、この北の障子の向こうに人の気配がするのを「こちらや、そういう人が隠れてる方だろう、あわれや」と御心留めて、やおら起きて立ち聞きなさると、さっきの子の声で、
「もしもしどうですか。どこにいらっしゃいますか」
と良い感じの枯れた声で言うと、
「ここに寝ているよ。お客様は寝なさってるか。どれだけ近いかなと思っていたけど。けれど遠い感じだったな」と言う。
寝ていた声の乱れ方がとてもよく似通っているので「姉妹だ」と聞いておかれる。
「外の縁台だね、大殿籠りだお休みなさっている」「音に聞いてるご本人を拝見している」「ほんとに注目だったね」とひそひそと言う。
「昼でなかったら、覗いて拝見してます」と眠そうに言って、顔を引き込んでいる声がする。妬い、心留めても問い聞けかし、とあじきなく思う。
「まろは端に寝ておりましょう。あなくるし」と言って灯を掲げなどしてるな。彼女はただこの障子口の筋交えのところに寝ているはずだぞ。
「中将さんはどこですか。人の気が遠い感じして、何かこわい」と言うので、ふすまの敷居に人々が平伏して答えをするのだ。
「下へ湯におりて、ただ今参ろうとおります」と言う。
皆静まっている気配なので、掛金を試しに引き開けさなさると、あちらからは閉ざしていなかった。衝立てを障子口には立てて、灯はホノ暗く、見なさると唐櫃のような物達を置いてある。散らかった雰囲気の中を分け入りなさると、ただ一人ごくささやかに横になっている。ややわずらわしいけれど、上にある衣を押しやるまで。求めている人だと思った。
「中将を呼んでましたから。人知れぬ思いの、しるしがある気がして」とおっしゃるが、どうもこうもわけわからず、ものに襲われる気持ちして「や」と怯えるが、顔に衣がさわって音も立てない。
「突然に、深くない気持ちだなとお思いでしょう。当然ですが、年来ずっと思っていた心の内も聞いて知ってほしいのです。こんな機会を待っていたのも、そう浅くもないのかと、思っておいてください」とごく柔らかくおっしゃって、鬼神も荒立つまいの気配なので、中途半端に「ここに、人」と声も出せない。
気持ちが「はっ」とせつなく「あるまじきこと」と思えばリアル過ぎて「人違い、ではございませんか」と言うのも息の下である。
消え入るように戸惑っている気配がとても苦しげで可憐なので「これは」とご覧になり「間違うはずもない心の案内板を、思わずにもぼんやりさせなさるのか。恋愛に興味があるようには、まったくお見受けいたしません。思うことを少し聞かせるべきだ」と、とても小さくささやかなので、掻き抱いて障子の前に出なさる。と、呼んでいた中将という人が来てしまった。
「やや」とおっしゃるので、変だなと探り寄った。と、はっきり香りが満ちて、顔にも曇りかかるような感じ。思い当たった。
我に返り「これはどういうことか」と思い戸惑うけど、聞くあてもない。並々の人ならば荒っぽく引きはがすだろうけども、それでも多くの人が知るならどうなるのか。心も騒いで、追って来たけれど、動けない。
奥にある御座にお入りになる。障子を引き立てて「明け方にお迎えに、そうせよ」とおっしゃると、女性は、この人が思っていることさえ死ぬほどに理不尽で、流れるほどの汗になって心底困惑しているようだ。いとおしいけれど、いつもの、どこから取り出しなさる言葉であろうか、あわれを知る限り情々と言い尽くしなさろうとするが、なおも全く信じられなくて、
「現実とは思えない、のです。数に入らない私ですが、思い浮かべていたご心境のことも、どうして浅くなど思いますでしょうか。実にこういう世界は、こういう世界という、ことなのでしょう」
と言って、こう押し立ちなさるのを、奥底では冷たくてもの悲しいと思い入っている様子も本当に可憐で、心に恥じらう雰囲気なので、
「そういう世界をまだ知らない。初めての事やぞ。なかなか。押し並んでいる列に思ってしまわれているという、悲しいと思います。おのずから聞きなさるようもあろう。強引なスキ心は、まして知りませんのに。そういうものなのか、現にこうお慌てになられてしまうのも道理である、心の惑いが、自分でも不思議なくらいなんです」
などと真剣になって様々におっしゃるが、類いなきビジュアルのその人が、さらに打ち明けて語るのに、もの悲しさを感じた。
「すくすくとこだわらず、とお見えにはなるけど、これはその世界で言われる『甲斐無さ』無意味さなんだ。この人はむなしさの中で生きているんだ」と思って、ただつれなく振る舞ったのだ。
しなりのあるところに強さをさらに加えてあるなら、なよ竹の心であってさすがに折れるはずもない。
本心から困惑して、一方的なお気持に「言えないよ」と思って泣く様子などは、本当に胸を打つ。心苦しくはあるが、見ないでいるならば口惜しくなるのでは、と思う。慰められない、悲しいと思われて、
「なぜ、こう疎ましいものにさえも思うのか。覚えない様なるにしてもこそ、契りがあるとはお思いになりませんか。無下に世を思い知らぬように思われなさるなんて、とてもつらい」
と恨みされて、
「本当にこう憂い身の上が定まらない。かつてのままの身の上でこんなお気持を見ましたら、あるまじき我が頼みとして、見直しなさる後瀬をも思いまして慰めますのを、本当にこう仮である浮き寝のほどを思っておりますと、類いなく思いまして惑われるのです。せめて、今は見たとかけないで」
と言って思っている様子はじつにほんとそのとおりだよ。おろかならず約束して慰めなさることは多くあるはずだ。
鶏も鳴いた。
人々が起き出して「めちゃいぎたなかった夜だな」「御車引き出せ」とか言うんだ。
守衛も出て来て、女などが「御方違いこそ。夜遅くに急がせなさるべきなのか」などと言うもある。君は、またこのようなついでがあろうこともまず無理で、さしはえてはいかでか、手紙なども通わすことの無意味すぎを思われると、とても胸が痛い。奥の中将も出て恐縮しまくるで、お許しになってもまた引き留めなさりつつ、
「どうして聞こゆべき。誰にも分からない御心の辛さもあわれも浅くない夜を思い出すと、様々に珍らかなるべき験しかな」と言ってお泣きになる様子はとても真実味があった。鳥もしばしば鳴くと、気持はあわただしくて、
つれなきを うらみも果てぬ しののめに とりあえぬまで おどろかすらむ
女は自身の有様を思うと本当につきなく眩い気持ちがして、めでたく接してくれるのを何とも思わない。いつもはとてもすくすくしく心づきなしと思いあなづる伊予の方が思いやられて、夢にでも見たのかとそらおそろしくつつましい。
身のうさを 嘆くに飽かで 明くる夜は とりかさねてぞ ねも泣かれける
コトと明るくなって、障子口までお送りになる。中も外も人が騒がしいので、引き立てて別れなさるところ、心細く隔てる関に見えた。
直しなどを着て、南の高欄からしばし眺め渡している。西面の格子をそそぎ上げて、人々が覗いているようだ。簀子の中央あたりに立ててある小障子の上から仄かに見えているその様子を、身に滲みるように思う恋心があるのだ。月は有明で光が弱いから、影はさやかに見えて、なかなか心揺れる夜明けだ。何の心もない空の景色でも、見る人によって艶めいても凄くも見えるものなのだ。人知れぬ心にはとても胸が痛く、言付けをしようにもその道すらない、と振り返りながら出ていった。
殿に帰っても、すぐにまどろむことはない。再び会えるあてはない、それ以上にあの人の思う心の中はどんなものだろうと心苦しく思いを馳せる。飛び抜けていることはないが、目安く身に付けてもあった。中の品かな。隈なく見渡している人が言った事はまさに、と思い当たったのだった。
このほどは大殿にのみいらっしゃる。なおいとかき絶えて、思うだろう事がいとおしく気に懸かって、苦しく思い侘びて、紀伊守を呼んだ。
「あの、あの時の中納言の子は得させてんや。放っとけず見えたで身近く偲ぶ人にする。上にも我たてまつろう」とおっしゃると、
「じつにありがたい仰せ言でございます。姉なる人におっしゃってみよう」
「その姉君は朝臣の弟をもっているのか」
「そうでもありません。この二年くらいはこうしておりましたが、親の決め事に反したと思い嘆いて、すっきりしないように聞いております」
「あわれなことだ、よろしく聞こえた人なんだ、まことにもしかすると」とおっしゃると、
「変ではないでしょう。離れて疎く疎くおりますから。世の習いなので睦んでおりません」と言う。
さて五六日があって、この子を連れて参上した。細やかに優雅とはないけれど、キラめいた様子をして、貴人と見えたよ。呼び入れて、ごく親しくお話をした。童心にはすごくびっくりでうれしいと思う。姉妹の君のことも詳しくお聞きになる。必要なことは伝え聞かせなどして、恥ずかしげに静まっているので、打ち出しにくい。それでもよくよく言い知らせなさる。
こんな事こそはとほのかに心得るが、思いのほかだけど幼い気持で深くは踏み込まない。手紙を持って来ると、彼女はぼうぜんとして涙も出てくる。この子の思うだろうことも端がなくて、さすがに手紙を面隠しに広げた。とても多くて、
見し夢を 逢う夜ありやと 嘆くまに 目さえあわでぞ ころも経にける
など、目も及ばぬ書き様も霞み塞がって、心得ない宿命とともにある自分を思い続けて臥せる。
別の日、小君を呼ぶと、参上するといってご返事を乞う。
「このような手紙は見るべき人もない、と伝えよ」とおっしゃると、笑って、
「違うべくもおっしゃらなかったものを。どうしてそうは申そう」と言うのに、心が疚しくて、残りなくおっしゃらせよ、知らせてける、と思うのに辛いこと無限だ。
「さあ、老いたようなことは言わないのがいい。じゃあ、参りなさるな」とむずがられて、
「呼ぶなら、どうして」と言って、参上した。
紀伊守は、興味本位でこの継母の現状を惜しいものに思って、追従して歩くが、この子をもてかしずいて、連れて歩く。
君が呼び寄せて「昨日は待ち暮らしていました。なお相思ってはいけないんでしょうね」と恨み言を言うと、顔を赤らめていたよ。
「いずら」とおっしゃるのに「しかしか」と申すと「言っても仕方ないことだ。なんてことだ」と言ってまたも賜った。
「アコは知らんな。その伊予の翁よりも前に見た人だぞ。けれど、頼もしげなく首が細いといって、ふつつかな後見を設けて、こう侮りなさるんでしょう。それでも、あこは我が子にておられよ。この頼もしい人は生い先が短いから」
とおっしゃると「そうもあったか、すごかったことだな」と思える。
「おかし」と思う。
この子をまつわせなさって、内裏にも連れて参りなどしなさる。我が御厘殿におっしゃって装束などもさせさせて、ほんとうに親のように接しなさる。
手紙は常にある。けれどこの子も幼な過ぎで、心にもなく適当にすれば軽々しい評判も付き回ってこよう、身のおぼえをいとつきなかるべく思えば、目を引く事も我が身からこそと思って、打ち解けた御答えも聞かせず。
ほのかであった気配お有様は「ほんと、なべてにやわ」と思い出し聞かせんのではないけど「おかしい様子を見ていらっしゃっても、何になるというのだ」などと思い返すのであった。
君は思い起こしている時間もなく、心苦しくも恋しくも思い出す。思っていた様子などの愛おしさも、晴れる方も煙る方もなく思っている。軽々しく這い紛れ立ち寄りなさろうも、人目しげかろう所に無意味な振る舞いがあらわれないかと、人のためもいとおしい、と思い煩う。
いつもの御所に日数経なさるころ、さるべき方の忌みを待ち出しなさる。にわかにまかでなさる真似をして、道のほどからいらっしゃいましたよ。
紀伊の守は驚いて、遣水の面目と恐縮し喜ぶ。小君には昼から「こうなあ思い付いた」とおっしゃり約束した。明け暮れにまつわせ慣らしなさっているから、今夜もまず呼び出したよ。
彼女からもあるご連絡があったので、思い謀っていたほどは浅くとも思っておけない。とはいえ、打ち解け人並でない有様をお見せ差し上げても、あっけなく夢のように過ぎてしまった嘆きをまた重ねるのかと思い乱れて、なおさて待ち受け聞こえさせることが眩いので、小君が出て往ぬるほどに「いと気近いから、片腹痛い。悩ましいので忍んでうち叩かせなどするのに、ほど離れてを」と、渡殿に、中将と言ったものが局している隠れに、移った。
ある心して、人をすぐに静めて、ご連絡あっても小君は尋ね会わない。あらゆる所を求め歩いて、渡殿に分け入って、かろうじて辿り来たよ。もうなんてことだ辛い、と思って「どれだけ意味ないと思うんだ」と泣かんばかりに言うと「この、けしからぬ心映えはつかうものか。幼い人のこんなことを言い伝えるのはすごく忌むなるものを」と言い嚇して「心地悩ましければ人々避けずおさえさせてなむ、と聞こえさせよ、怪しいと誰も誰も見るんだから」と言い放って心のなかでは(いと、こう品が定まっている身のおぼえではなく、過ぎにし親の御気配とまれる実家なのに、たまさかにも待ちつけさせていただいたらおかしくもあるだろか。強いて思い知らぬ顔に見消しても、どんなにほどを知らないように思われるだろう)と心にあっても胸が痛く、さすがに思い乱れる。
「そうでもこうでも、今は言ってもしかたのない宿命なら、無心に心付きなくて止めよう」と最後に思ったのだった。
君は、どうやって謀りをしようかと、まだ幼いものを後ろめたく待ち臥しなさるところに、不用なるよしを聞こゆれば、意外で驚きになっていた心の様を、「自分もまじ恥ずかしくなってしまった」と超いとおしいご様子だよ。とばかりもおっしゃらず、いたく呻いて困ったと思ったのだった。
箒木の 心を知らで 園原の 道にあやなく 惑いぬるかな
聞こえる方などなかろう、とおっしゃった。女もさすがにまどろんでいなかったので、
数ならぬ 伏屋に生うる 名の憂さに あるにもあらず 消ゆる箒木
と聞こえたよ。
小君がいといとおしさに眠たくもなくて惑い歩くのを、人があやしいと見るんじゃ、と侘びなさる。
いつものように人々は眠り呆けているのに、一人漫然と興醒めて思い続けられるけれど、人に似ぬ心様がなおも消えず立ち上っている、と妬ましく、かかるにつけてこそ心もとまれとこれもお思いになりながらも目が冴えて辛いので、そうあれとお思いになるがそうも思い果てられず、隠れているだろう所になおも連れて行け、とおっしゃるが、ガチ苦しそうにさし籠められて人がやたらといるので賢明に、と聞かせる。いとおし、と思った。
「よし。あこだに。捨てるな」とおっしゃって、傍らにお臥せになった。若くなつかしい御有様を嬉しく素敵だと思っていると、つれない人よりは、ずっとずっとあわれに思われるという。
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