彼女の猫
第34-35章「若菜」上下より ついたてをてきとうに引きのけていて、人がそれなりにいるように見える。 洋猫の、ごく小さくて愛らしいのを、少し大型の猫が追いかけて、いきなりすだれの端から走り出てきた。人々が怯え騒いで「そよそよ」と身じろぎサ迷う気配。衣類の音が耳にうるさい気がする。 猫はまだよく人にも慣れてないかな、とても長い紐が付いているのを何かに引っ掛けて纏われているのを「逃げる」と引っ張り合うのだが、すだれのほうがもうあらわに引き開けられてるのをすぐに引き直す人もない。この柱のとこにいてた人達も、気持が泡立って物怖じしてる雰囲気だよ。 ついたての境を少し入ったところに、裾を長くひいた衣裳で立ちなさる人がいる。 階段から西の、二の間の東の側なので、見まちがうところもなくありありと目に入れられる。紅梅ではないかな、濃い薄い次々に無数に重なってる。境目が華やかで、糸で閉じた書物の端のように見える。桜柄の織物を下に着ているんだな。 髪の先まで鮮やかに見えるわ。糸を撚り掛けているようになびいて、先端はふさふさと削がれている。じつに美しい感じで、二十二三センチくらいか伸ばしなされるのが着物の裾に降りてマジ細くサラサラで、その姿、髪がかかっていなさる横顔、言いようもなくニクい、放っておけないのだ。夕方なので鮮明ではなく奥暗い感じなのが、どこまでも気になる。 ボールに命をかける若者達は、花が散るのも惜しいとは思わない。その様子を見ても、皆そのあらわな光景を「ふ」とも見つけていないはずだ。猫がイタく鳴くので振り返りなさる、その表情や振舞がとてもおおらかで「若く美しい人なんだ」とふいに思ったのだ。 (その後) その猫を求め取って、夜もその近くに寝ていなさる。 明けて朝になれば、猫のお世話をして撫で育てなさる。人間とは距離のあったその心ももう良くなついて、ともすれば衣服の裾に纏わり寄ってきて寝ころんで親しむのを真剣に「美しい」と思う。超ガン見してその近くに寄って横になりなさると、来て「ねう、ねう」とマジいじらしく鳴くので、グルグル撫でて「悲しいのも消えるかな」と笑顔である。 (原文) 御几帳どもしどけなく引きやりつつ、人気近く世づきてぞ見ゆるに、唐猫のいと小さくをかしげなるを、すこし大きなる猫追ひ続きて、にはかに御簾のつまより走り出づるに、人びとおびえ騒ぎて「そよ...